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新型コロナウイルスとサイトカインストーム

 

新型コロナウイルスとサイトカインストーム 〜東京大学医科学研究所・最新科学より


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである(SARS-Co-V-2)は驚異的なスピードで猛威を振るった。

約40億年前に生物(細菌)が誕生し、約30億にウイルスは出現した。 約6億年前に酸素濃度が現代に近づき、多細胞生物は多様性を形成し始める。それに続き、原始的な免疫システムといわれる自然免疫系(マクロファージ、顆粒球、補体の第3成分、NK細胞)ができた。

ここから自然免疫(食細胞)とウイルスの攻防戦の歴史が始まる。

第一次防衛隊である自然免疫は、敵襲来の信号をキャッチすると警報物質(インターフェロン)を放出して食細胞(好中球)が活躍し感染細胞を丸呑みする。

但し、今回の新型コロナウイルスは巧みにこれを阻止する、巧妙な仕組みを備えていることが東京大学医科学研究所の遺伝子研究で判明された。新型コロナウイルスに含まれるORF3bという遺伝子が、本来ウイルスの侵入を自然免疫に伝えるはずの警報物質インターフェロンを10分の1の量を制御していた。

それにより、自然免疫が上手く働かず、本来せきや発熱が出ておかしくないレベルでウイルスが増殖し、周りに撒き散らしているのに無症状の状態が続く。これを「見せかけの無症状」という。

「見せかけの無症状」は気付かないうちに人にうつす。 厄介な無症状が5日間ほど経過すると、せき-倦怠感が襲ってくる。やがて免疫システムの働きが鈍く重症化に至るケースもある。

自然免疫で抑えられない場合は体内でのウイルスの大増殖が心配になるが、私達の免疫システムも負けてはいない。

第二次防衛隊である獲得免疫が出動する。 まず初動の防衛システムが作動。樹状細胞が病原体をスキャンし取り込んだ情報を「キラーT細胞」に伝える。即座に「キラーT細胞」による集中攻撃が開始される。体内でのミクロで壮絶な戦いを繰り広げる「キラーT細胞」。毒物を注入し必死の捕獲に向かうが、なんと新型コロナウイルスは「キラーT細胞」を退ける特殊能力を持っていた。

そこで、最終防衛システムが作動。先ほど「キラーT細胞」と共に伝達を受けた「ヘルパーT細胞」が変身した姿である「B細胞」の登場となる。手には大量の武器(抗体)を持っている。それを投下し広範囲に散らばった病原体を駆除する働きを見せた。

約5~6億年前のカンブリア紀に多様な高等多細胞生物が爆発的に進化した。脊椎動物が魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類と分岐し、生体防御系も自然免疫から獲得免疫(特異免疫)へと進化を遂げた。

ウイルスにとって、最大の脅威は宿主の免疫応答だ。生きた細胞の中でしか増えることができないウイルスは、免疫系の働きにより異物と認識され排除されてきた。そのためウイルスは、生体防御系の働きを阻害し、免疫応答から逃れ、また免疫系を標的に免疫中枢を破壊するものもある。

また、今回の新型コロナウイルスのように、不思議な現象が現れることもあり、新しい感染症では病理解部を行って初めて分かる事がまだまだ沢山ある。

今回多くの患者さんで肺血栓・塞栓症という現象が起きた。 それは「サイトカインストーム」という免疫異常が引き起こす、免疫細胞への自爆攻撃によるものだ。自らを破裂させウイルスを倒す捨て身の攻撃であるはずが、血液を固める凝固系に異常をおこし血栓をつくりだす。これにより心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞、下肢動脈塞栓の発症が現れた。

新型コロナウイルスは経験したことのない未知のウイルスである。私たちはあらゆる攻撃法を尽くしこのウイルスと戦う覚悟である。

※現在、免疫抑制剤は開発途中です。
「アクテムラ」のようなサイトカインの免疫の働きを抑える薬はあります。但し、他の生物学的製剤同様に免疫機能を過剰に抑制させることで炎症を抑える効果を発揮するため、感染症にかかりやすくなることがあります。

新型コロナウイルス感染症に立ち向かう医療従事者の皆様、自らの感染やご家族の感染リスクという大きなプレッシャーのなか看護および治療に奮闘していただき、心から敬意を表するとともに、深く感謝申し上げます。

 

 

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